R03年度 2021年度 量子力学の解説
こんにちは。2021年度(R03年度)の量子力学の解説をやっていきます。
問題を持っていない方向けの閲覧およびダウンロードのリンクはこちら
最初に,この記事では理解しやすくしたり記憶のとっかかりをつくりやすく(忘れちゃってもその場で自分で導出できるように)するためにできるだけ詳細な説明を書きますが,説明がよくわかんない or 丸暗記でもいけるよ という方は,無理に理解しようとせずに流れをさくっと覚えてしまうことをオススメします。多分そっちの方が効率がよいと思います。
あと,めちゃくちゃいっぱい書いたので結局試験の時なに書けばええねんって感じになっちゃったんですけど,ここをうまくつないで書けば説明として抜けがなく点数がもらえそうだな,と思ったところは赤字にしているので,参考にしてみてください。
略解
1(1) (2)(3)
2(1) (2)
(3) (4)または
(5)
3(1) (2)
4(1) (2)
(3) (4)
5
大問1 小問集合
使う式を知っていれば他の大問とくらべて軽めの計算で解ける問題ばかりなので,しっかり得点しておきたいところです。
(1)ウィーンの変位則
プランクの熱放射式より導かれる黒体放射スペクトルのピーク波長に関する関係式にウィーンの変位則というものがあり,これは物体の放つ光のスペクトル,物体の温度として以下の式で表されます。
問題用紙の上の方にも書いてあるやつですね。黒体放射を始めたとき,温度が同じならばどのような種類の物質でも同じ色で光るということをいっています。
接頭語に気をつけてを代入すると,
となり,について整理すると,と分かります。
(2)光電効果
光子のエネルギー,仕事関数,とびでてくる電子の運動エネルギーの最大値とすると,以下の式が成り立ちます。
理由を知りたい人は,以下の記事がわかりやすくてよかったです。
また,光子のエネルギーは,波長,光速,振動数として,以下のように表せます。
よって,エネルギーは以下のように計算できます。
ここで,問題文で与えられている仕事関数の単位と光子のエネルギーの単位が異なるので,で統一することにしましょう。いま,なので(問題文の上の方に書いてあります),
と単位を変換できます。よって,仕事関数の式に代入すると,
となり,これが答えです。
(3)ド・ブロイ波長
エネルギー,質量,光速として,特殊相対性理論よりが成り立ちます。よって,であるので,運動量,粒子の速度とすると,です。
これは振動数,光子のエネルギーとして成り立つ光子のエネルギーに関する式より,と変形することが出来ます。
こうしてできた式をについて整理すると,ド・ブロイの関係式
になります。
ここに,を代入すると,となり,いま問題文より,また運動しているのは自由電子であることからが成り立つので,代入すると
となり,これが答えです。
大問2 一次元調和振動子
ばねにつながれた物体のような挙動をする調和振動子の問題です。毎年井戸型ポテンシャル or リング型 or 一次元調和振動子 のどれかに関するシュレディンガー方程式が必ずと言っていいほど出題されている気がします。
計算が煩雑で結構めんどくさいので,(1)だけ解答して他の大問に力を注いでもいいかもしれません。
(1)シュレディンガー方程式の立式
シュレディンガー方程式とはエネルギー演算子,波動関数,エネルギー固有値の間に成り立つという式のことです。この式は,エネルギー演算子を波動関数に左から作用させる,つまり波動関数に「ねえねえ,お前のエネルギー固有値っていくつなん?」と質問すると,「こんくらいだよ」と質問の答えであるエネルギー固有値に波動関数がかかったものが返ってくる,と考えると多少理解しやすいと思います。
エネルギー演算子は,で表され,ポテンシャルの方は状況によって異なります。今回の場合は復元力がはたらいているので,座標での復元力に逆らって幅がと微小である区間の間を移動すると得られるポテンシャルをで足し集めると考えると, という式が立てられ,計算するととなります。ここらへんの説明はよくわかんなかったら一次元調和振動子のときはだけ頭に入れとけばだいじょうぶです。
よって答えはとなりました。正直,いきなり答えを書いちゃっても点数が入ると思いますが,こわいので一応 一次元調和振動子の時のポテンシャルについて言及しておきましょう。
(2)(3)固有関数とエネルギー固有値の導出
とりあえず,基底状態の固有関数が与えられたので,シュレディンガー方程式に代入して計算をすすめてみましょう。
波動関数に基底状態の固有関数を代入すると,エネルギー固有値が基底状態のエネルギー固有値になり,シュレディンガー方程式は以下のようになります。
左辺は
と展開でき,を合成関数の微分を用いて計算すると,
となります。
この計算結果をもとのシュレディンガー方程式にもどすと,
となります。で割ったり分母をはらったりして整理すると,
となり,大分すっきりしました。ここで,でくくれる項と定数項をわけ,左辺にあつめて右辺をにしておきます。
このようにしてできた式の大元はシュレディンガー「方程式」であることから,この式はすべてのについて成り立つことが必要なので,どのようなについても右辺がになるために,でくくった項の係数と定数項の2つがそれぞれになることが必要です。この条件より2つの式
を得られて,これは2つの未知数を知るのに十分です。解くと,となります。
(4)規格化
シュレディンガー方程式をよく観察してみると,あるを定数倍したものもシュレディンガー方程式の解になりうることがわかり,このようにして作ることが出来る数学的に方程式を満足する解は無数に存在します。しかし,この無数の解の中で実際に現実世界のルールを物理的に満たす波動関数は限られていて,は特定の値しかとりえません。このを算出することを規格化と呼びます。
この「現実世界のルール」を数式に落とし込んだものである規格化条件というものが存在し,以下の式で表されます。
これは粒子が存在しうる範囲,つまりの間に粒子は必ず存在するという制約から,この範囲での座標における粒子の存在確率である,の関数としての波動関数の絶対値二乗をすべて足し集めると全事象の確率である1になるということを背景に立てられる式です。
この規格化条件を用いれば波動関数の係数部分であるを求めることができます。実際に規格化条件におけるにを代入し規格化してみると,
ここまで変形できれば,問題用紙の上の方にあるの式を適用することが出来ます。この式のにを代入すると(文字がかぶってて混乱しそうですが,を にまるまる置き換えるイメージです),となり,規格化条件の式は以下のようになります。
について解くと,となりますが,どちらの値も波動関数的には同じ意味を持ち,片方は必要ないので慣習にならっての方を残せばよいです。答えは「である」と書けば,を規格化したことになります。定数をに数値を代入した波動関数をかいたり,に(2)の結果を代入したものをかいたりしてももちろんokです。その場合の答えはです。
(5)位置及び位置二乗の期待値計算
一般に,ある物理量の期待値は,ブラ・ケット表記での観測量を表す演算子を用いてと表されます。これを積分になおすと波動関数の複素共役を用いて,と表せます。この小問では,およびの期待値,つまりおよびを問われているので,具体的にはおよびを求めればよいということになります。実際にの方から求めてみましょう。
はの複素共役ですが,今回はが実数関数なので,が成立します。または,で定義され,が成り立つので,そのまま代入してあげましょう。
ここで,被積分関数は,奇関数と偶関数の積となっていて,被積分関数全体としては奇関数になっています。これに加え,積分範囲がとについて対称になっているので,積分するまでもなくであることがわかります。よってであることがわかりました。
についても考えましょう。が成り立つので,先ほどと同様の議論で
までは計算することが出来ます。あとは,問題用紙の上の方にある式のにを代入してあげれば,が成り立つので,
とわかり,は(2)(4)より既知なので代入することによって値が求められます。答えはとなるはずです。
ここまでは量子論的なアプローチで期待値解釈をしましたが,古典的なアプローチでの期待値解釈も紹介しておきます。忘れちゃったり不安になったりしたときに思い出すきっかけになったら幸いです。結果は一致しますが,厳密にあってるかはわからないので,解答用紙にはそれとなく「期待値はこうこうこんなふうに表されるので~」みたいな感じで古典的アプローチについては明記しないほうが無難かなと思います。
そもそも,あることがらに関する期待値は,取りうるすべての事象について,の総和と等しいです。例えば,6面それぞれにと書き込まれているサイコロを振った時の出る目の期待値は,以下のように求められます。
これを踏まえて,座標の期待値を考えてみましょう。いま,座標の付近の区間幅の微小区間を考え,「座標に粒子が存在する事象」に着目します。ここの事象の値(知りたいことがらに対するこの場所での値,いまは座標です)はになりますよね。そして,座標に粒子がいる確率は(4)規格化でも触れましたがで表されます。よって,座標におけるは,になります。
この値を,座標として取りうるすべての事象,つまりの範囲のすべてのについて足し合わせれば座標の期待値となります。よって求める期待値は,となり,これは先ほどの求めるべき式と一致しますね。
大問3 二原子分子の並進エネルギー
使う式を覚えていれば比較的簡単に解ける箇所なので,ぜひとも得点したいところです。
(1)一分子の運動エネルギー
いかなる種類の粒子にも,自由度1つ当たりのエネルギーが配分されるという法則があります。ここで,はボルツマン定数,は粒子の絶対温度です。この法則をエネルギー等分配則とよびます。
並進というのは,粒子の重心を目的二原子分子の並進の自由度は3なので,並進の自由度によって配分されるエネルギーはとなり,これが一分子の運動エネルギーの平均値に値します。この一分子の運動エネルギーの平均値をとおくと,ボルツマン定数であり,問題条件よりなので,
となり,が答えです。
(2)二乗平均速度
ある粒子の運動エネルギーは粒子の質量,粒子の速度としてと表せ,この中にが含まれているので,(1)で求めたをなんとかいじくって二乗平均速度を出したいという気持ちになります。
「あれ,平均なのになんで問題文の根号の中の値はじゃなくて期待値なの?」と思った人もいるかもしれませんが,実は,この場合は二乗速度の平均値と期待値はおなじものを指しています。というのも,「平均値 = すべての粒子の二乗速度の総和を粒子の数で割って均一にならしたもの = 多数粒子の中から無作為に粒子を一つとってきて二乗速度を測定する,という操作を十分な(データの偏りがなくなるくらいたくさんの)回数繰り返してその平均値をとったもの = 期待値」という風に言い換えることができるんですね。ということで,は,と同値です。またこの議論は(1)の運動エネルギーにも適用でき,は,と同値です。よって,
が成り立ちます。また,運動エネルギーの関係式より,
です。これをに代入すると,が粒子によってばらつきがなく定数とみなせることから期待値の線形性(この場合は, という風に,任意定数についてが成り立つこと)より以下のように変形できます。
以上の議論をまとめると,以下の式が成り立ちます。
これをについて整理し,ルートを取ると,
となります。ここまでくれば,これに(1)の答えとを代入してあげれば,
となります。次元の変換でちょっとびっくりしてしまうかもしれませんが,仕事の式より,また,運動方程式よりであり,の式にを代入すると,整理してルートを取ってという風に変換することが出来ます。
大問4 分子の励起
(1)換算質量
2原子以上で構成されている分子を考えるとき,換算質量という概念を用いると,1原子の粒子のように扱うことが出来て,便利になります。換算質量は,原子の質量,もう一方の原子の質量としたとき以下のように表されます。
和分の積と覚えるとよいでしょう。
今回は,どちらの粒子も原子なので,原子質量単位(のの質量 の質量)を用いてとなります。代入すると,
あれがいくつなのか与えられてないじゃん,と思ったんですが水素原子は陽子(プロトン)と電子(エレクトロン)それぞれ一つずつで構成されているので,プロトンの質量,エレクトロンの質量としたとき,が成り立ちます。よって,換算質量は,
となります。有効数字は3桁なので,仮数部分(小数のところ)は四捨五入して1.17になると考えましたが,教授の解答では1.16になっていたので,切り捨て処理をしたと判断し,この記事もそれに準拠し答えをとします。
(2)合成慣性モーメント
分子の合成慣性モーメントは,換算質量,結合距離として以下のように表せます。
接頭語に気をつけて代入すると,
となります。
また,このような計算問題では前問で算出した数値は有効数字より1桁余分にとって計算(具体的には,ではなく, として計算)するのが通例ですが,なぜか計算が合わない(仮数部分が1.415になりました)ので,ここでも教授の解答をベースにには(1)の答えをそのまま代入したものと考え,さらに仮数部分1.403を切り捨てしたを答えとします。
(3)(4)励起状態にある分子の存在比率
ある励起状態にある分子の存在量の比率は,存在する確率の比率と等しいです。つまり,方位量子数の状態をとる確率をとすると,
です。また,は,ボルツマン因子に比例します。
また方位量子数の粒子は,磁気量子数がの範囲の個の整数値を取ることが許され,これをスピン多重度とよびます。はスピン多重度にも比例します。
これらに分配関数の逆数をかけると,になります。
スピン多重度にがかかると確率になる理由のちゃんとした説明はこちらの記事がわかりやすかったです。
以上の議論をまとめると,以下のようになります。
問題文より,なので,
となるので,これが(3)の答えです。
(4)は,(3)より,なので,,ボルツマン定数
と(2)の答えを代入し,注意深く計算できれば正解することが出来ます。計算すると,は
となるので,誤差を丸めて答えはとなります。
大問5 ヘルマン-ファインマンの定理
やることが分かっていれば一本道ですが,文字がいっぱいでてくるので計算が大変です。また,小問がなく部分点が入る箇所がなさそうなのもこわいです。
ヘルマン-ファインマンの定理は以下の式で表されます。
この式は,「エネルギー演算子を好きな文字で微分したものの期待値は,エネルギー固有値をさっき決めた好きな文字で微分したものに等しい」という意味です。式でみるより,言葉での説明をみたほうが理解しやすいと思います。
この問題においては,波動関数は問題文にある通り一電子固有状態についてのものなので, と,が成り立ちます。また,今知りたいのは,であり,これはと等しいです。よって,なんとかしてブラケットのまんなかの部分をにしてやればよく,また期待値の線形性( という風に,任意定数についてが成り立つこと)より,定数倍はあとからかけたりわったりすることで調整がきくので,ブラケットのまんなかにというかたちを残せればよいことがわかります。この形にできるように逆算していきましょう。
ハミルトニアン(エネルギー演算子)をよくみると,第2項の分母にがありますね。よって,微分された後は,ハミルトニアンの第1項は残っておらず,第2項にが逆数として残っている形が理想です。これより,微分する文字としては不適切であり,のいずれかが適していることがわかります。この中の文字ならどれで微分してもよいので,ハミルトニアンとエネルギー固有値を見てみて一番微分がしやすそうなで微分することにしましょう。
いま,としてヘルマン-ファインマンの定理を適用すると,
となります。とを計算すると,
となりました。ヘルマン-ファインマンの定理の式に代入すると,
となり,先ほどの期待値の線形性よりと変形できるので,
とすることができます。左辺を計算すると,
ボーア半径より,
となり,これはであり,同時にでもあるので,この問題の答えはであるとわかりました。